/滅びし者へ/ 

情けは人の為ならず(滅度:☆☆)


(1992年5月 高松競輪場)

 午前10時、JR高知駅は帰省客や観光客でごったがえしていた。大きなお土産を抱えた人込みの中でひときわ目立つ3人組の手にはスポーツ新聞が握られているのみであった。よさこいライン高松遠征の朝である。

 特急列車「南風号」の自由席車両は二つ、前が喫煙車で後ろが禁煙車であった。私とダービーは競りなしで好位が得られそうな禁煙車を主張したが、ヘビースモーカーのうし君は喫煙車を主張。「イン粘りでラインを割る」との強気の言葉と共に別戦勝負に出た。私も昔パチンコ店の開店で鍛えた「ド根性横の捌き」を駆使して席取りを目指したいところであったが、そこはそれ、本日は遠征の方も多いことであり危険な競争は避けるべきとの意見でダービー師と合
意した。

 そして私たち二人は往年の井上茂徳を想わせるような軽快なフットワークと華麗なハンドル捌きで見事に車中での位置を確保した。うし君は競り負けて喫煙車に位置無く、ヒラヒラと後退して来る。しかしもちろん禁煙車にももう位置はない。ここでうし君の阿波池田までの立ちん坊が決定した。

 高知を後にして1時間ちょっと。やっと阿波池田に着いた。ここで乗客の乗り降りがある。ここで座れなければ高松まで位置はない。捌きの甘いうし君ではあるがここは何とか座席を確保することに成功した。と思ったら、阿波池田を発車すると彼はまた立っている。見ると彼の座っていた座席にはお年寄りが。

 「神様は、僕のこの善行をきっと見ていてくれる。今日はきっと良いことがある。大勝利だ。」と言ったうし君に対してダービー師曰く「それが勝負師としてのおまえの甘さだよ。」この時はその言葉も単なる冗談としか聞こえなかったのだが・・・・・・・・

  とにかく私とダービーは立ちっぱなしのうし君を尻目に駅弁を食べたりビールをうまそうに飲んだりしながら一路高松へと向かったのであった。


 「ふう、これでやっとお前たちと同じ土俵へ上がったぞ。」7R、展開有利に運んだ国谷武彦(埼玉)から力で突っ込んだ佐古雅俊(広島)への、3070円を取った私が言った。ダービー師曰く「残念ながら私も買っている。」近況最悪の私は二人より1ランク2ランク小さい張りしか出来ない運命にあるようだ。

 こうなったら一発狙ってみよう。幸いさきほどのレースで取ったおかげで楽に買える。勢い任せで次のレースで運試しだ。

8R S級特選
1 川口 浩貴(徳島)
2 松川  歩(香川)
3 中塚 記生(熊本)
4 山下  勝(香川)
5 加藤 浩利(静岡)
6 藤井 久之(広島)
7 内田 浩司(福岡)
8 星川  淳(神奈)
9 佐久間仙行(東京)

 こんなメンバーであった。佐久間の存在は気になったが、出切ると異常に強い松川と運命を共にしてみることにした。2−4で2500円、 2−3で6000円、2−5で3000円ほど付けていた。この3点。最後にセコク遠征ラインの4−6を押さえる。しかしここで他の二人も同じ車券を買っていたのではいつまでたっても差は縮まらない。車券を購入した後でダービー師の買い目を確認すると「俺は究極の車券を購入した」などとほざいている。うし君は興味がなさそうな様子、どうも見の様だ。

 佐久間−加藤−星島、内田−中塚−星川、松川−山下−川口で周回。打鐘で内田ラインが佐久間を叩くと、その上を松川がカマシ気味に逃げて、4番手を内田が取り、佐久間は7番手に置かれる。願ってもない筋書き通りのような展開。2角から佐久間が懸命に捲り上げるが2センターで山下のブロックに会い失速。佐久間マークの加藤が山下後位に切り替える。松川−山下−加藤・・・・で4角を通過。(九州ラインは何をしていたんでしょうねえ)

KAGI   「おっしゃあああああああああああ!!!2−4、にいよん、にーよん」
ダービー 「4−4、よんよん、よんよん、よんよん、4−4、よんよおおおおおおん」
・・・・ 直線で加藤が一気に伸びる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

両名 「よんに!!!!!」

KAGI   「ひえええええええええええええウラ食ったああ」
ダービー 「ひょええええええええええええ1−3着」

1着加藤 2着松川 3着山下  2760円

 8R終了後、未練いっぱいにレースを振り返るダービーと私を尻目に、うし君はうとうとと居眠りを始めた。今日の満員列車立ちっぱなしでかなり疲れているようだ。迎えた9Rは以下のようなメンバーであった。

9R S級順決
1 山田 英伸(神奈)
2 野原 哲也(福井)
3 松本  整(京都)
4 藤田 朝弘(静岡)
5 櫻井 邦彦(大阪)
6 池田 智明(福岡)
7 梨野 英人(香川)
8 野崎 修一(栃木)
9 井上 茂徳(佐賀)

 逃げる選手がいない。地乗りでは井上は池田に付けた。続いて梨野と山田の併走でその後ろに野崎。中部近畿は、野原−松本−桜井で周回した。多く金を入れたレースを外して早くも弱気になった私は、少しだけ買った。うし君は相変わらず眠っている。彼は10Rに勝負をかけると言っていたことだし、9Rも見であろうと考えて起こさなかった。

 締切直後に目覚めたうし君が「しまった、このレースは買うつもりだったのに」との発言。買い目を聞いてみると6−5とのことである。私もしまったと思った。こんな場合えてしてそれで決まるものである。わたしも6−5が本線だったのだ。しかし”追込−マ−ク”の車券でもあり大きく行くのは危険と考たのと弱気になっていたこともあり少ししか買っていなかった。

 レースはいやいや?逃げた池田以下一本棒のレース。井上が追い込み、捲った(!!)山田、得意のイン突きから伸びた松本をおさえて何とか梨野が流れ込んだ。6−5は520円であった。ああ、神とは無情なものである。お年寄りに席を譲るという美しい善行がこんな形で報われるとは・・・・・・それとも競輪ファンのイメージからかけ離れた行動に対する天罰か。

 さあ後がない

10R S級決勝
1 伊藤 公人(埼玉)
2 高木 隆弘(神奈)
3 梶應 弘樹(愛媛)
4 三木 輝明(徳島)
5 安田 久一(福島)
6 岡部 芳幸(福島)
7 白石  護(東京)
8 加藤  忍(秋田)
9 梅澤 謙芝(三重)

 お金持ち及びシビアな客はほとんど高木=伊藤で勝負であろう。貧乏人の期待の星は岡部−安田−加藤の北日本二段掛けラインか。

 打鐘前の二角で後方から一気に北日本ラインがしかけたときはスタンドが沸いた。が、出切ると岡部は流した。前にいた三木はイン粘る始末。隊列不揃いのままホームからバックへ。捲りになった高木には願ってもない展開。2角辺りから満を持して仕掛けると、アッという間に前段を飲み込みそのままゴールに飛び込んだ。完璧マークの伊藤がG前鋭く迫ったが僅かに及ばず。
 2−1は440円でした。

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