| /滅びし者へ/ |
(1996年6月 びわこ競輪場)
『ほれ、これ取っちょきや。』
うし君が祝儀を配っている。私がウラ食った、4レースの和田誠吾−細川貴雄を取ったのだ。私たち二人の片方が当たるとき、他方はウラ食っているというむごい事態がよく出現する。これで3回連続だ。ちなみに双子車券で『よっしゃ!一緒に笑おう』と言ったことは数多いが、数分後にはお互いをなぐさめあうという、美しいシーンへと移行するのである。困ったものだ。
とにかく、私もありがたくその祝儀をいただいた。それは金ではない。『第5R2−3、10枚』と書かれた紙片なのだ。実は、私も自己資金で2−3を購入している。300円ちょっとの一番人気だ。本命を買うと、なぜか寡黙になってしまう私は、黙って周りの喧騒に身を任せている。
第5R 1 1 森田 進(埼玉57) 2 2 馬渕 紀明(愛知68) 3 3 萩原 操(三重51) 4 4 和泉田喜一(千葉59) 5 中沢 央治(大阪59) 5 6 松本 雅彦(東京56) 7 北川 智博(滋賀61) 6 8 藤本 博之(熊本53) 9 佐々木浩三(佐賀50)
『何人も2−3を買っているうえにこの祝儀じゃ、こりゃないわな。』 誰かが言っている。
レースが始まった。
一番強い選手が、絶好の捲りごろの展開をものにする。3角過ぎには捲りきって、歓声の中を直線へ。交わるわけがない。2−3は車番連勝で340円。これは93年グランプリに続く全員当たりの快挙かと思ったことだろう。二人を除いて。 私は知っている。ウラの3−2の車券しか持っていない人がいることを。ただ一人祝儀をもらっていないその人が隣でうなだれている。
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